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佐賀県の陶芸作家
 
作家写真 辻毅彦
(有田町)
昭和11年有田町生まれ。佐賀工業高校卒業後、29年理研工業(現リコー)東京本社に勤務。32年横浜造型研究所で島田章三氏、林敬二氏らに師事。35年に帰郷し、父辻一堂氏や井上萬二氏に陶技を学ぶ。翌年、日展に初入選し、以後28回入選(56年と平成5年は特選)。欧米各地を巡り、それぞれが持つ情感を伝える作品づくりを行っている。現代工芸美術家協会監事。
若いころから絵を描くことが好きだった辻毅彦さんの作品は、焼き物というよりも、むしろ白磁をキャンバスにした絵画と呼んだ方がふさわしいかもしれない。ヨーロッパの教会や古城、古い町並みを描いた陶額やつぼ。建物の屋根を上絵付けした金や赤の美しさもさることながら、呉須(ごす)で表現した明るい青空がひときわ鮮烈に目に飛び込んでくる。
絵の輪郭は鋭く切り込んだ線刻で描かれているのが特徴。辻さんは「高校時代から使っている分割器です」と、コンパスに似た製図用具を作業場から持ってきた。その太い針先で彫るのだという。線刻に合わせ彫刻刀などで削りを入れた立体感ある作品も少なくない。

辻さんは佐賀工業高機械科を卒業後、上京して大手事務機器メーカーに就職。大学のデザイン科出身の同僚に影響を受け、画家を目指すため3年で退社した。横浜市にある油絵の研究所に入門したものの、病気のため入試条件を満たせず進学をあきらめ、結局有田に戻った。日展作家の父・一堂さんの下で陶芸の道を歩むことになり、窯業試験場で井上萬二さんにろくろの手ほどきを受けた。

額皿の注文に追われる日々が続く中、夜は独自の作品づくりに励み、動物などを下絵でかいた角ものの磁器を制作。作陶を始めた翌年に「顔」で日展に初入選した。

その後、一堂さんの死をきっかけに作風は大きく変化した。錦絵を描いていた父に倣って上絵を取り入れ、造形ではろくろを駆使することが増えた。教会や海を題材に選ぶようにもなったのもこのころから。キリシタン文化が息づく長崎県を訪ね歩き「敬けんな気持ちを起こさせる聖(ひじり)の世界」に魅了されたのだという。

15年ほど前からは欧米に足を運び、マンハッタンのビル街やミラノの大聖堂などをモチーフにした作品を手掛けている。中には、同じ風景で建物の配列を大きく変えるなどデザインもさまざまで、具象的なものから直線を主体にした幾何学的なものまで幅広い。「形を崩しつつ、その土地の情感を伝えたい。色彩も明るい志向でモダニズムを開拓できれば…」と語る。

英国やフランスなど13カ国・地域を巡って作り続けてきた外国シリーズ。現在は、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク3国の「ベネルクス」をテーマに新作に取り組む。

「次のテーマはスイスやイタリアかな。一度行った場所も再び訪れ、違う作風に挑みたい」。辻さんの胸の内には、いくつもの熱い思いが秘められている。
出展作品
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コートダジュール

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遙か−エーゲ

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■聡窯
西松浦郡有田町中樽
JR上有田駅から徒歩で10分。
駐車場15台分。展示場あり。
電話0955(42)2653
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このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。
※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。
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