トップ >> 佐賀県の陶芸作家 >> 井上萬二 |
|
磁器、ことに白磁の世界は「完全さ」が求められる。一切の加飾に頼らず、やわらかで滑らかな造形だけで、端正さ、温かさ、凛(りん)とした風格を表現する難しさ。「形そのものが文様」という井上萬二さんは、白磁の神髄を追い求めてきた。 白磁の第一人者、有田焼ろくろ成形の名手、そして平成7年の「人間国宝」認定。その妙技をたたえる称号は数多いが、井上さんは自戒の念もこめて「名陶無雑」という言葉を口にする。 白磁は平凡な形が一番難しい。「芸術家はテクニックよりもアイデアというが、伝統工芸の世界では用と美を兼ね備えて初めて人間性あふれる作品が生まれるものと信じている」。今もひたすらろくろの前に座り、一点のゆがみも許さない。「名器に雑念はない。あるのは技術と感覚だけ」。自己を厳しく律し、大きな陶土の塊に鋭い眼光を向ける。 有田の窯元に生まれたが、軍人を志し15歳で海軍予科練に。復員後、父親の勧めで働いた柿右衛門窯で大物ろくろ師として名高い初代奥川忠右衛門の技に出合った。 修業に入って7年ほどの時。「初めて見る奥川さんの技のすごさに身震いした。『この人に近づきたい』という目標が、その後の修業の壁を乗り越えさせてくれた」。すぐに門下生となり、ひたすらろくろの技を磨いた。この青年期の出会いが今も井上さんの作陶姿勢の根っこにある。 29歳で柿右衛門窯を退社し、県窯業試験場の技官となった。昭和44年には約5カ月間、米国・ペンシルベニア州立大から有田焼の講師に招かれ渡米。通訳なしの講義に苦労しながらも、逆に学生たちから得たものも大きかったという。 「米国は伝統が浅いから、創作の発想も自由。学生たちは同じ目的を目指しても、それぞれが違う道をたどる。常に新しさを求める姿勢を学ばせてもらった」。有田という伝統の町に生まれた幸運を感じる一方、それに疑いもなく浸ることの危うさを痛感したという。 井上さんの作品は海外でも高い評価を得ている。これまでドイツやハンガリーで個展を開き、ことし3月にはモナコで国王の在位45年を記念した展覧会も開いた。「海外展といって気負う必要はない。日本の伝統美を見てもらい、納得してもらうだけ」。マイペースを崩さないのは、白磁の美に自信があるから。その信念は大英博物館展でも変わらないだろう。 後進の指導に情熱を傾けてきた井上さんの教え子はすでに500人を超える。アメリカにも150人。その教え子たちが今年の誕生日に「古希」を祝ってくれたのがうれしかったという。「意欲がなくなったら、作陶活動の終わりの時。まだまだ丸いつぼに心ひかれるうちは青年期」。作陶意欲はみなぎり続ける。 |
■井上萬二窯 西松浦郡有田町西部丁。JR有田駅から車で5分、歩いて25分。 駐車場は約20台収容。展示場あり。 電話0955(42)4438 |
|
■関連リンク 筒井ガンコ堂のガンコスタイル・器が酒を美味にする | ||
|
||
このコーナーは平成12年度に開催された、大英博物館佐賀県陶芸展への出品を控えた陶芸作家のみなさんにインタビューを行った記事です。記事は「佐賀新聞」に掲載されました内容を転載しております。 ※作品、作家の写真は、佐賀新聞社提供によるものです。 |
Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます |