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八戸窯
やえがま


 八戸窯は旧長崎街道沿いの、静かな住宅街の一角にあります。長崎街道とは、今も各所に江戸時代の香りが残る歴史街道です。通りに面した敷地に、出迎えてくれるように木々がある、コンクリートのおしゃれな八戸窯展示場へ入ると、窯主の西岡孝子さんがにこやかに出迎えてくれました。八戸窯の作品は、やきものが多い佐賀でも「あれは八戸窯の器だ」とすぐわかる、「練り上げ」という独特の技法による作風が人気です。

―こんにちは。わあ天井が高くて、不思議と和洋折衷の雰囲気が漂う素敵な展示場ですね。部屋の中もコンクリートの打ちっぱなしになっているんですね。

 はい、ここの通りが「旧長崎街道」ということもあって、昔の土蔵をイメージしてデザインした建物なんですよ。現代的な素材を使った建物ですが、大きな梁を思わせる柱のデザインを施したり、コンクリートの打ちっぱなしは白壁をイメージしています。表の壁の中央には、私のプレート作品をアクセントとして飾っているのですが、よく教会と間違えられるんですよ(笑)。
 八戸窯(やえがま)という名前も、この付近の歴史ある地名からとったものです。佐賀の方は八戸(やえ)をご存知ですが、県外で個展をすると、八戸(はちのへ)と間違えられることがありますね。でも、窯の名前をきっかけに話も弾みますし、佐賀の歴史を知っていただけるかなとも思っています。

―ところで八戸窯さんの作品は、「練り上げ」という技法で作られているそうですが、具体的にどういう技法なのですか?

 まず、自分が表現したい文様を考えて、棒状にした色のついた土を用意します。それをちょうど巻き寿司のように、くるりと巻き込みます。これで、いわゆる金太郎飴のようなものが一本できるわけです。そしてこれを何本も束ねあわせてできた、太い棒状のものを金太郎飴のようにスライスすると、表も裏も同じ文様が出ている板ができあがります。そしてこの土の板を型どっていくわけです。
イメージした文様を、どのように土を配置すれば表現できるのか、頭の中で土を組み合わせて想像していく過程が好きなんですよ。

―なるほど!実は私も西岡さん作のカップをもっているのですが、どうやってつくってあるのか不思議だったんです。それと、西岡さんの器は磁器なのに、肌合いがあたたかみのある質感ですね。

 皆さん、よくそう言われますよ(笑)。はじめはこの文様を描いていると思われる方もいるようです。この器の表面の質感は、焼成するときに、土ものを焼くような酸化と呼ばれる方法で焼いているからなんです。

―そうなんですか。西岡さんがやきものの世界に入られて、「練り上げ」技法に取り組まれるようになったきかっけは何だったんですか?

 実は私は、有田窯業大学校の第一期生なんです。子供の頃から物をつくるのは好きだったので、窯業大学ができると知り、おもしろそうだと思って進学しました。学生の時に、たまたまこの「練り上げ」技法を使ったぐい呑みを買ったのですが、形と文様が一体となって、ひとつの世界を表現できるところにひき込まれました。モダンな印象の強い「練り上げ」ですが、実は中国の唐の時代にもあった古い技法なんですよ。日本では明治時代に一時期復活していたようですが、当時の美的感覚と合わなかったのか、そう長くは続かなかったようです。
 私は器を作るとき、形と文様のバランスに気を使っています。どうしても文様の印象が強いので、形をシンプルにしています。量産が難しい反面、「ひとつ」しかないものをつくっていきたいとも思いますし、気にいって楽しく使ってくれる方に「ひとつ」が伝わればいいなと考えています。
今後の抱負としては、まず自分の色と文様を確立し、「これが私」といえるものを生み出したいですね。そして私の考えるデザインの表現のひとつとしての、作品をつくることができたらと考えています。

―普段はどういったご趣味をお持ちですか?

 展覧会や個展を見てまわるのが好きですね。仕事にも直結していることもありますけど…。制作のヒントとなるものが含まれていますので、各地方の伝統的なやきものなどは、気にいったら購入するようにしています。後はガラスなどを収集しているんですよ。ほらベネチアンガラスなどは、この練り上げと、同じ原理でつくられているでしょう。それと、組み立てが好きなだけに、ジグソーパズルが大好きです(笑)。もう一気に完成させてしまわないと気が済まないですね!

 西岡さんの作品は、かわいらしい文様から、器全体に色のグラデーションが表現された、非常に精密なものまで幅広い表現が印象的です。手の込んだ器でも、不思議と使う人に圧迫感を感じさせない暖かみがあるのですが、それは西岡さんのからりとした明るいお人柄にあるのかもしれません。今年で開窯八周年を迎えるそうですが、これから大いに活躍が期待されるお一人であることには間違いありません。
西岡さんは九州陶磁器デザイナー協会(DACT)に所属なさっています。毎年2月から3月にかけて、佐賀県立九州陶磁文化館で展示される「九州陶磁器デザイナー協会展」でも、西岡さんの作品と出会うことができます。また不定期ですが年に2回ほど窯開きを開催されているとのことです。
DATA
八戸窯
所在地 〒840-8054 佐賀県佐賀市八戸二丁目4-8
電 話 0952-25-4781
展示場
交 通 JR佐賀駅から車で15分
駐車場
店休日 不定休(おでかけ前に電話連絡ください)
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