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佐賀県重要無形文化財 古希 特別記念 
和紙染 江口勝美の世界展

<会期:平成17年4月26日〜5月1日>
平成17年4月26日

 ゴールデンウィークを間近に控え、花水木やつつじなどの花々が、街路を美しく彩っています。今回は、佐賀県立美術館にて開催の陶芸作家・江口勝美さんの古希記念「江口勝美の世界展」におじゃましました。江口勝美さんは、平成6年に「染付・和紙染」技法にて佐賀県重要無形文化財の指定を受け、また全国でも珍しい成形技法「刳り抜き」技法に取り組む、佐賀を代表する陶芸作家の一人です。今回は来年古希を迎えるにあたり、これまでの作陶50数年に及ぶ集大成の意味をこめて、20代から現在までの江口さんの作品を展観。会場となった佐賀県立美術館には江口さんの代表作70点がずらりと並びます。
「これまで各地で展覧会を開催してきましたが、大きな節目にあたる今回は、ぜひ地元の佐賀の方とふれあいながら作品を見ていただければとの強い思いがあり、こうして念願がかない嬉しく思います。」と江口さん。

 江口さんが取り組まれている技法「和紙染」とはどんなものでしょうか。作品を見ながらその工程を教えていただきました。近年の代表作のひとつ「和紙染刳抜陶筥(第50回日本伝統工芸展)」。シャープなひし型の陶箱に、幾何学的な連続文様が染付の和紙染にて表現された端正な作品です。
和紙染は着画技法のひとつで、まず素焼きされた器面の上に模様を型抜きした和紙を置きます。そしてその和紙の上から染料を染み込ませると、和紙を通して器面に染料が染み込みます。こうして和紙でワンクッションおくことで、やわらなか雰囲気の絵付けが完成します。また何回かに分けて染料を染み込ませることで、グラデーション表現も。さらにこの上から筆で絵付けを施したり、掻き落しを加えることでさらに完成度の高い複雑な文様ができあがります。
「もちろん模様の数だけ型紙和紙をつくりますが、幾何学文様の場合、器面がカーブになっているとそれを考慮して同じパターンの型紙でも少しずつ大きさを変えて全体のバランスを整えます。なかなか気の遠くなるような作業ですよ。」と江口さん。
幾何学の模様の際には、はさみで型紙を切るそうですが、植物文などの型紙をおこす際には、さらにやわらかで自然な雰囲気を出すために、線香の火で型紙を切っていくという作業も行うそうです。

 江口さんが取り組まれている技法にはもうひとつ「刳り抜き」と呼ばれる成形技法があります。江口さんの作品には陶箱が多く、これは「刳り抜き」技法によるものです。「刳り抜き」は膨大な時間と高い技術を要するため、全国の陶芸作家で取り組んでいる方は恐らく江口さん一人とか。
まず箱をつくる際に、土を叩き締めてかたまりを作ります。そして蓋と身の部分になるよう切断します。さらに器の中になる部分を叩き締めて数ヵ月ねかせます。この間もひびが入らないよう慎重な気温や湿度調整が必要です。その後、のみを用いて、中身を刳り抜き、のこぎりで削ったり、やすりペーパーで磨いたりしながら形を整えていきます。10点つくって最終的に作品となるのは1点か2点。
「大変体力と時間を要する技法ですが、たたら成形や鋳込み成形にはない完成度の高さが追求できます。」と江口さん。とくに箱の角や蓋と身の合わせが難しいそうですが、「どうぞ、箱の蓋と身の継ぎ目あたりを撫でてみてください。」との言葉に失礼して…、手でなでると段差や凸凹感が感じられず、蓋と身が一体となっているのがわかります。

 「和紙染」、「刳り抜き」といった技法のほか、実は江口さんは作家としては珍しく磁器も陶器にも取り組まれています。「この材料は陶器にだけ、磁器にだけ。などという決まりはないと思うんですね。材料や技法に惚れこんだら、違った表現はできないか?この素材と組みあわせたらどうなるか?と好奇心のままに手を動かしてしまうのです。」
同じ刳り抜き技法の陶箱でも、磁器は硬質感が全面にでた雰囲気。陶器の場合は土肌が感じられ、編み箱のような柔らかい雰囲気です。「和紙染筒陶筥」は陶器による「和紙染」・「刳り抜き」の作品。土そのものの色合いや肌合いの中に、柔らかな和紙染の草花文が静かな自然の空気感を感じさせてくれます。

 江口さんの各年代の代表作が並んでいますが、どれも新鮮に感じられる作品ばかり。「その時々に持っている技術を凝縮させて表現したからでしょうか。20代の作品は今の私にはつくられませんし、その年代の技のさえを感じていただければ幸いです。」と江口さん。今後はこういった技術を用いて、日用に気軽に使ってもらえる、生活を楽しくするようなものをつくっていきたいそうです。
「できるだけ私の言葉で伝えたい」と会期中はほどんど会場にご本人が詰めているそうです。佐賀にはたくさんの陶芸作家さんが活躍されていますが、その代表作をまとめて展観、また作家さん本人からお話を聞ける機会は少ないものです。江口さんの集大成を通して作家の「美の世界」を垣間見れる展覧会です。


■お知らせ
江口勝美さんの作陶生活を記した本が古希を記念して出版。
■和紙染 江口勝美 陶道一心
■出版:佐賀新聞社
■価格:1,800円(税込み)


●佐賀県立美術館
【所在地】佐賀市城内
【電 話】0952-24-3947
【駐車場】有
【休館日】月曜日