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やきものに描かれた人物
<会期:平成16年10月30日〜11月28日>
平成16年11月6日

 10月末から11月初めにかけて、有田・伊万里地区ではさまざまな秋の陶器市や、やきものイベントが開催されました。観光もかねてお目当ての窯元さんを訪問された方もいらっしゃったのではないでしょうか?
 この秋、有田の柿右衛門窯では、併設されている古陶磁参考館にて「やきものに描かれた人物」と題する企画展が開催されています。私たちが訪れた日も、県外からの観光客ややきものファンで賑わっていました。
柿右衛門古陶磁参考館は、普段は、柿右衛門窯が所有する古陶磁や歴代柿右衛門氏の作品を常設している施設です。今回の「やきものに描かれた人物」では、古陶磁の所蔵品の中から様式、時代にとらわれず、人物が絵付けされたり、人物像の置物など約50点ほどの作品が並び、当時の風俗や絵(文様)に秘められたストーリーなどを垣間見ることができます。もちろん「柿右衛門」・「人物像」と聞くと思いつく、柿右衛門様式の婦人像も展示されており、その美しい肌合いやまなめかしい佇まいに、思わずどの観覧者も足を止めて見入られていました。

 まずは故事をテーマに絵付けされた作品をご紹介しましょう。18世紀中期頃の色絵の作品で「色絵鶯宿梅文花瓶」という作品です。この「鶯宿梅(おうしゅくばい)」は、絵画などにも取り上げられるテーマ。平安時代、村上天皇が、御殿の梅が枯れてしまったので、美しい梅だと評判だった紀貫之の娘の庭の紅梅を、御殿に移植しようとしました。
梅を大事に育てていた娘はたいそう悲しい思いをし、「勅なれば いともかしこし 鶯の宿はと問はば いかが答えむ」という歌を書いた短冊を梅の枝にくくって、紅梅を献上しました。「天皇のご命令なので、この梅を献上しますが、この梅にとまる鶯が飛んできて、私の家はどこですか?と聞けば、なんと答えていいのでしょうか」という意味の歌に、村上天皇は感動し、紅梅を返したという故事です。
花瓶には、庭に咲く梅の花を愛でているのか、それとも別れを惜しんでいるのか、静かに梅を見つめる娘が描かれています。朱に近い赤を基調とした絵付けで、紅梅の華やかさや甘い香りまで伝わるような色調です。

 「鶯宿梅」のように絵画でもよくある題材「寒山拾得(かんざんじっとく)」をテーマとした絵付けも展示されていました。こちらは中国から伝わったお話ですが、森鴎外の小説「寒山拾得」でご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。寒山と拾得は、中国・唐時代の伝説的な禅僧で、自由奔放な奇行で人々を驚かせていたのだとか。掛軸など禅画にも好まれた図柄で、寒山は経巻を抜き、拾得は筆を手にしている図柄が多いそう。18世紀中期の「染付寒山拾得文皿」もそうした二人を皿の見込みに描いています。山間で、二人で座っている様子は茶目っ気のある子供のようにも見えます。絵付けの周囲は型打ち成形による彫り文様が施されていました。

 おそらく欧州への輸出用として制作されたのではと考えられる作品もあります。
「色絵車に乗る婦人水注」こちらも18世紀中期頃の作品です。華麗な装飾が施された車に座った婦人像ですが、ゆったりと結った髪、朱赤をベースとした明るい着物、そして少し着物をはだけてひざ下を出している様子は、エキゾチックな雰囲気が漂います。
婦人像は頭が蓋になっており(首から外れる)、車部分に金属製の蛇口が取り付けられています。





 同じく輸出用と思われる作品で染付のものもありました。「染付唐人物文水注」18世紀前期頃のものだそう。オリエンタルな雰囲気が漂う形の水注で、胴部に唐人が単純化されて描かれています。さっと単純に描かれた人物と、淡くぼかされこれも単純に描かれた花文が周囲を飾り、のどかで楽園的な様子です。口の部分には、婦人像水注と同じく、金属製の口蓋が取り付けらていました。

 古陶磁の作品を紹介してきましたが、柿右衛門窯ならではの貴重な資料「土型」も展示。「土型」とは、陶磁器の成形時に使用する道具のひとつで、型に粘土を押し当てて成形したり、ろくろで成形した製品をその型にかぶせて形を整えるのに用いたりするものです。土でつくられているので劣化がすすみやすいのですが、柿右衛門窯には江戸時代の土型が約1,000点も残されており、年紀が記されているもので一番古いのは「貞享2年5月吉日」(1685年)が保存されているそうです。
今回展示されていた土型は18世紀中期のもので、「揚香文(ようこうもん)」と呼ばれる親孝行の話を題材とした文様を象ったものです。残念ながらこの型を用いた伝世品は残っていないそうです。
型は輪花型の大きな鉢で、口縁の周囲が欠けたり、本体に少しひびが入っていましたが、文様の細かな様子まではっきりと観察できます。「揚香」は中国の親孝行話「二十四考」に登場する人物。
揚香は父とともに山へ出かけますが、虎が襲いかかってこようとします。揚香が「私の命を虎に与えるので、父を助けてください」と天に祈ったところ、虎は逃げ、二人とも助かったという逸話です。
土型の向かって右半身には今にも襲いかかりそうな勢いのある虎、左半身にはそれをくいとめようと必死にうったえているような揚香が彫られています。これで制作された鉢は白磁だったのでしょうか?それとも青磁?どんな仕上がりになっていたのか興味は深まるばかりです。

 今回のこの企画展のために新たに所蔵品を見直し、初めて一般公開する古陶磁もあるとのことでした。ひとつのテーマにそった作品群を見るのは、鑑賞ポイントがわかりやすく、想像を膨らませながら楽しむことができます。絵付け、人形、そして柿右衛門様式あり、古伊万里様式、幕末期のものと様々な人物像と出会える展覧会です。



■取材雑記
参考館には、古陶磁の作品だけではなく、人間国宝14代酒井田柿右衛門氏の作品も並んでいます。華麗な展示作品だけではなく、建物にもご注目。参考館の入口ドアの大きな取っ手も、濁し手に赤絵の柿右衛門様式の美しい陶磁器製なのです。観光客の方々も、この取っ手を見つけて「きれいだわ」と驚かれたり、記念撮影されていました。



●柿右衛門古陶磁参考館(開館は9:00〜17:00)
【所在地】 西松浦郡有田町西部丁352
【電 話】 0955-43-2267
【駐車場】 有
【休館日】 年末年始