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新春展「めでたい文様」
<会期:平成16年1月2日〜1月14日>
平成16年1月1日

 あけましておめでとうございます!平成16年第一回目の「行ってきました見てきました」はお正月の晴れやかな気分にふさわしい展覧会をご紹介いたします。佐賀県立九州陶磁文化館で1月2日より開催の新春企画「めでたい文様」展です。報道向け公開として一足早く、展覧会におじゃましてきました。これまでの展覧会レポートでも、「文様」にまつわるお話をご紹介させていただきましたが、今回の展覧会はその名の通り、おめでたい意味合いを持つ文様が描かれた陶磁器を一堂に紹介するものです。
 おめでたい・縁起の良い意味合いを持つ文様のことを「吉祥文様(きっしょうもんよう)」と言いますが、これには長寿・富貴・出世・栄達・子孫繁栄などの願いがこめられ、陶磁器だけではなくさまざまな美術工芸品に用いられています。中国文化の影響を受けたものや、日本独自の文様もあるそうです。今回出展されていたのは、九州及び中国の陶磁器から47件70点。「栄達」「金運」「招福・子孫繁栄」「長寿」と4つのコーナーにて紹介されていました。

 それでは各コーナー毎にご紹介していきましょう。「栄達(えいたつ)」コーナーでは、「猿・鯉の滝登り・鷺と蓮」などの文様が描かれた陶磁が並びます。これらは、難しい試験や困難を突破し、昇格するという意味があり、多くの人のあこがれから発展した文様と考えられるそうです。今年の干支でもある「猿」ですが、この猿は栄達の象徴に加え、高望みへの戒めの意味も含まれているのだとか。猿は「猴(こう)」とも書くそうで、中国語では「侯」と同じ音で発音されます。このことから「侯」、つまり高い地位に通じるものとされていたのだそう。
 一方日本では「猿猴捕月(えんこうほげつ)」という、手長猿が片手で枝につかまり、もう一方の手で水面に映る月をとろうとしている画題が好まれました。これは仏教からきたもので、欲にかられて身のほどを忘れる高望みを戒める教えに由来しているそうです。この「猿猴捕月」を題材にしたと思われる作品も展示されていました。「色絵貼付猿波文松形掛花生(有田・1700〜30年代)」という作品です。波間に漂う実を猿が片手でつかもうとしている場面をあらわしています。ちょっとユーモラスな猿の表情に気をひかれますが、昔の人はこの花生を見ては自分の生活に戒めを与えていたのかもしれません。


 次の「金運」コーナーは現代の生活でもなじみのある「恵比寿」や「大黒」「七福神」といった文様が登場します。文様だけでなく色や方角などでも「金運」を担ぐのは誰でも一度は経験があるのでは?
 このコーナーに「色絵金魚藻文小鉢(有田・1770〜1800年代)」という、ちょっぴり漫画のようなかわいらしい金魚が描かれた作品がありました。金魚が金運とどう繋がっているのでしょうか?この「金運」を願う文様のひとつとして「魚・金魚」も含まれるのだそう。魚は食用にもなるため、また中国語では魚の読音が「有余(ユゥ)」と同じ音であることから富と幸福をあらわすものとされていました。また、金魚も中国で富を象徴するもので、金玉(きんぎょく)の音に似ていることから「金玉満堂(きんぎょくまんどう)」つまり、金や玉が建物に満ち満ちていることと同義とされていました。安定した暮らしや豊かさを願うのは、古今東西同じようです。

 「福を招く」という願いを込めて、漢字そのものを連ねる「福字(福や寿など)」という文様もあります。これらは「招福・子孫繁栄」コーナーにて紹介されていました。また、福を意味するという蝙蝠(こうもり)の文様も、招福として肥前磁器にはよく用いられたそうです。蝙蝠は吉祥文様として中国から伝わり、蝙蝠の蝠が「福」と同じ音であることからの由来だとか。ちょっと不気味なイメージが漂う蝙蝠にこんな秘密があるとは驚きました。
 また昔の人が好んだ縁起もののひとつとして、子孫繁栄も大変好まれていたようです。その子孫繁栄を意味する文様として、植物の実がよく用いられています。これは植物がたくさんの実をつけて栄える様子を一族繁栄の象徴とみなしているのです。今回の展示では「三果文(さんかもん)」と呼ばれる文様が紹介。「三果文」は、仏手柑・桃・柘榴を描いたもので、仏手柑はちょうど仏の手を連想させるような形から多福を意味し、桃は豊かな実りのイメージから多寿。柘榴は実が多いことから多子を意味しています。またそれぞれの植物の意味合いに加え、三という数字は五や七などの数字と同様に吉数とされ、吉祥を三つ組み合わせれば、さらに良いとされていたのだそうです。

 「長寿」コーナーでは、現代生活の中でも身近な存在である文様が紹介されていました。「松」「鶴」「桃」「亀」などがこれにあたり、これらの文様は単独で表現されるのはもちろん「松鶴」「鶴亀」など組み合わせの文様も多く見られます。また「長寿」文様には「八仙迎寿(はっせんげいじゅ)」というものもあります。これは飛来してくる寿老人(じゅろうじん)を迎えて祝う八人の仙人たちを描いたもの。寿老人とは、南極老人星の神で、人の幸福や長寿をつかさどっているといわれています。文様としては、中央に寿老人、その周りに八人の仙人が描かれ、それぞれのキャラクターがわかるように持物や装いが一人一人違って描かれている場合がほとんどだそうです。

 現代では、その文様を見知ってはいても、「なぜおめでたいのか?」「何を意味しているのか?」という点について、次第に忘れられつつあります。今回ご紹介した文様も、お正月用品などに用いられているものも少なくありません。ちょっと手にとって、その文様にこめられた思いを考え、今年一年の「福」を願ってみませんか。



■お知らせ
学芸員さんによるこの展覧会の解説会が実施されます。平成16年1月10日(土) 14:00 〜 15:00となっています。九州陶磁文化館第一展示室にて開催。受講無料・参加自由です。


●佐賀県立九州陶磁文化館

【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12月28日〜1月1日