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縄文土器 ―北と南の出会い―
<会期:平成15年4月15日〜6月1日>
平成15年5月13日

 昨日までの晴天とはうって変わっての雨模様の5月13日。少し肌寒さを感じながら、佐賀県立博物館へおじゃましました。今回ご紹介するのは、佐賀県立博物館3号展示室において開催されているテーマ展「縄文土器 ―北と南の出会い―」です。縄文土器というと日本のやきもの史のまさに最初に登場する、現代の陶磁器のご先祖さまともいえるでしょう。実はこちら佐賀では、吉野ヶ里歴史公園もあるせいか、「弥生土器」を見る機会は多いのですが、「縄文土器」を特集するような展覧会は今までほとんどありませんでした。一体どんな土器と出会えるのか、ワクワクしながら展示室へ足をすすめることに。会場には、佐賀県内外から出土した20点ほどの土器や参考資料が並んでおり、縄文土器の文様づくりを体験できるミニコーナーもあり、田平副館長のお話をうかがいながら見ていきました。

 縄文土器は今から約1万2千年前に始まり、弥生時代に変わるまで約1万年ものあいだ続いたそうです。土器の登場によって、この時代の人々は食料を煮炊きする方法を知り、食生活が豊かになってくるのだとか。展示室では、そのような縄文土器を「関東・東北地方」、「九州地方」をいわゆる日本の北と南に分けて展示されていました。一目見るだけでもその違いは顕著で、「関東・東北地方」の縄文土器は大変デコラティブな形。「九州地方」の縄文土器はシンプルな形です。
 いわゆる北の縄文土器の中でまず目にとびこんできたのは、高さが80cmはありそうな大きな縄文中期の深鉢です。教科書などでよく見るタイプの縄文土器で、口の部分に手の込んだ装飾が施されています。こういった形の縄文土器を総称して「火炎土器」と呼ぶそうです。そういえば、口の装飾が燃え盛る炎のようです。「鉢の胴体の部分もよく見てください。小さな文様がびっしりついているでしょう?これは、縄などを使って付けられた装飾なのですよ。」と田平副館長。北のグループに展示されている他の土器も胴体部分に同じような文様がありました。土器の制作過程において、焼成する前の柔らかい段階で、縄を器の表面に転がして付ける文様だそう。「縄文土器」と呼ばれるゆえんです。文様づくりを体験できるミニコーナーもあり、私も粘土の上に縄を転がして文様をつくってみました。
 とても派手で、装飾華美とも思える土器ですが、煮炊きや呪術的な場に用いたと考えられています。同じく縄文中期の少し小さめの深鉢は、よく見ると胴体の上下で色が違います。上のほうは黒く煤がかかったようにしており、下は土色です。これは鉢の下部を地中に埋めて、煮炊きに使った跡と考えられるそうです。

 次に南「九州地方」の縄文土器を見てみることに。こちらは先ほどとはうってかわって、シンプルなつくりです。器の厚みも少し薄く感じられ、形も比較的単純です。熊本県から出土したという縄文中期の深鉢は、すっきりした形に口の部分に少しの装飾。器の表面にヘラで施したと思われる装飾がある程度です。他の出土品も似たようなシンプルで機能的なつくりものがほとんどです。この北と南の装飾の違いはなんでしょうか?
「おそらくは美意識の違いからくるものと思われます。想像するに、南は気候もよく開放的な気質の縄文人。反対に北は、厳しい自然におそれを抱きながら暮らす縄文人といえると思います。この気質の違いから表現の違いも生まれてくるのだと思います。」と田平副館長。北の地方の人々は、自然に対する思いを込めながら、祈りにも近いような装飾的な縄文土器をつくっていたのかもしれません。

 出土品からはこのような当時の生活を推測出来るとともに、文化や人の流れも推測できるのだそうです。佐賀県大和町から出土した縄文前期の深鉢は、シンプルな形に器面にヘラで付けたような装飾があります。これは「曽畑土器」と呼ばれるもので、西九州に多く見られるものだそう。そして沖縄にもあり、朝鮮半島にも同じような様式の「櫛目文土器」と呼ばれるものがあるそうです。この同じ様式の土器が発見されることから、この時代からすでに朝鮮半島と西九州における文化の交流があったと考えることができるそうです。弥生時代へと移行する稲作文化の伝来ともに、甕や鉢が中心だった日本の土器にも、朝鮮半島のものから影響を受けた壺などがつくられはじめます。このようにして、土器も弥生土器へと引き継がれていくのだそうです。

 これらの土器のほかにも、当時の生活道具である石器や、各種出土品、またやきものの歴史を簡単に出土品で紹介するコーナーなどもありました。それにしても、土器から当時の生活の様子や文化、また地域による人々の気質の違い、人の交流の動きを様々なことを推測するのは興味深いものです。「土器づくりの仕事は、女性の役割だったと考えられます。また土器を用いる煮炊きも女性の仕事だったようです。」との田平副館長の言葉を思い出し、それぞれの土器を前に、北・南地方の女性の自然や生活に対する思いや願い、祈りなどを垣間見たような気がしました。


■取材雑記
今回のテーマ展の参考資料として、西有田町の縄文時代の遺跡「坂の下遺跡」から出土したアラカシ(どんぐり)の実が展示されていました。実はこの縄文時代のアラカシ、現代に甦っているのをご存知ですか?出土後、水に浸すと発芽したそうで(昭和43年)、現在博物館の敷地内公園で、大きく育っているのです。おでかけになられた時に、ぜひご覧になってください。縄文人もこのアラカシの親木を眺めていたのかもしれません。
●佐賀県立博物館
【所在地】 佐賀市城内1丁目15-23
【電 話】 0952-24-3947
【駐車場】 有
【休館日】 月曜日(祝祭日の場合は翌日)