
伊万里・鍋島ギャラリー開館記念
将軍や大名が愛した器たち「鍋島の美」展
<会期:平成15年4月12日〜8月31日> |
平成15年4月12日 |
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昨年10月にオープンした伊万里市駅ビルに、4月12日市所有の古陶磁の名品を紹介する伊万里・鍋島ギャラリーがオープンしました。駅ビルは白壁土蔵風の二階建てで、市街地活性化の一環として建設されました。ビルは線路を貫くようにはしる南北道路を隔てて、両側に東駅ビル(JR)、西駅ビル(MR)と並んでおり、二階の連絡橋を渡って行き来でき、伊万里・鍋島ギャラリーは、西駅ビルの二階に位置しています。今回このオープンを記念して、「将軍や大名が愛した器たち『鍋島の美』展」が開催され、多くの伊万里市民や鍋島ファンの方々が、訪れていました。
また開会式典の後、東駅ビルの研修室にて、鍋島研究家で聖マリアンナ医科大学客員教授の工藤吉郎さんによる記念講演会も開催。工藤さんは鍋島コレクションを伊万里市に寄贈もされており、講演会では、鍋島の歴史や展覧会に出展されている作品解説を行われました。
ギャラリー会場には、17点の伊万里市重要文化財を含んだ、40件70点の伊万里市所蔵の鍋島作品が並んでいます。まずみなさんが注目されたのは「染付岩山吹文皿(1730〜50年代)」。この作品は、4月1日付けで伊万里市重要文化財に指定されたもので、新聞にも大きく写真が掲載されたことから注目を浴びているようでした。これは尺皿(径が一尺・約30cmのもの)と呼ばれるもので、現在のところ同じ文様の染付尺皿の類品がないことから、学術的にも価値が高いものだそう。工藤さんによると、スイスのバウァーコレクションに、同じような図柄で色絵尺皿が所蔵されているそうです。画面下の岩(太湖石・たいこせき)は、非常に様式化されて描かれており、その上部に描かれた山吹は器の左右に向かって大胆な配置がされています。もともと尺皿なので、かなり大きい作品なのですが、この枝が左右に振れていることで、ますます広い空間を感じさせます。
同じく重要文化財に指定されている「色絵蜘蛛巣紅葉文皿(1670〜80年代)」は、現在のところ世界でこの1点しか知られていないものだとか。
「絶妙に配置された蜘蛛の巣と紅葉が、高度な技術で描かれています。当時の鍋島の技術の高さを象徴するようなたいへん優れた作品です。」と工藤さん。見込みいっぱいに描かれた蜘蛛の巣は墨はじき技法によるもので、1mmほどの線と、髪の毛ほどの極細の線によって表現されています。紅葉も器を真正面から見た際に、左上・右下と対角線状に配置され、優雅な姿の中にもちょっとした緊張感も生み出されています。紅葉の葉をよく見ると、緑、黄色、赤と三種の色絵で描かれ、ここまで描きこまれたものも珍しいそうです。
図録などで見ると大きな作品のように思えますが、口径は12.5〜17.2cmと男性の掌にのるサイズ。この小さなサイズにこれだけの込み入った絵が描かれているのを見ると、当時の職人の技だけではなく気迫のこもった心意気や魂さえも伝わってきます。鍋島藩窯で働く陶工は、武士と同じく名字を名乗ることを許され、藩から給料をもらっていたとのことですが、そのかわり藩窯の周囲には関所や役所などがあり、非常にきびしい監視下にあったのだそうです。
「染付竹葉文皿(1700〜30年代)」も、同じく同柄で染付の尺皿は世界でこの一つしか見つかっていないそうで、工藤さんも好きな作品の一つだとか。非常に力強い構図でありながら、格調高い意匠で、思わず、近寄って見たり、離れて見たくなる作品です。しっかりと伸びた竹の枝二本を結わえ、ちょうど星形になるように配置されています。口縁にいくにつれ、竹の葉も曲線的に描かれ、完成された構築美でありながら動きを感じさせます。近くでみると、輪郭の線もスピード感と力強さのある筆運びです。

会場には皿だけではなく、香炉や向付なども展示されています。ちょっと変わったものとしては「染付詩文重箱(1870年代)」という作品もありました。大きさは23×23cmで高さ14cmほど。蓋に漢詩が書かれており、「茶雨」の落款があります。これは佐賀藩10代藩主・鍋島直正公が、伊勢藩主・藤堂高猷公のもとめに応じてつくった漢詩を引用していると推測されているそうです。この作品は二段重ねですが、九州陶磁文化館所蔵の類品は四段なので、おそらくこの作品も四段であっただろうとのこと。
会場を訪れた人も、鍋島の意匠の斬新さに目をみはられているようでした。「さらに鍋島の研究がさかんになって、その全容を解明したいですね。お膝元ですから、ぜひ伊万里市民の皆さんにもどんどん鑑賞していただきたい作品ばかりです。」と工藤さん。駅ビルという好立地だけに、たくさんの方に古陶磁の魅力に触れていただけることと思います。観光にいらした方もぜひ足を運んでみてください。今後の展覧会にも大いに期待したいと思います。
■取材雑記
このギャラリー入口は、頭上に柔らかな照明が設置されています。ふと見上げると、その照明はさっきまで鑑賞していた鍋島の作品をモチーフにつくられた磁器の笠だったのです。思わず「あれは笹文だ」などと言いながらみていると、他の人も上を見上げて「ほんとだね」「きれいね」と、足を止められていました。みんなでぽかんと口を開けての鑑賞に、思わず顔を見合わせてくすりと笑ってしまいました。
●伊万里・鍋島ギャラリー
【所在地】 伊万里市新天町549-1
【電 話】 0955-22-2267
【休館日】 月曜日(祝祭日の場合は翌日)
【入館料】高校生以上 300円、小中学生・65歳以上 無料
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