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■第48回日本伝統工芸展 福岡巡回展
<会期:平成14年2月13日〜2月18日>
平成14年2月13日

 昨年の9月をかわきりに開催されている日本伝統工芸展が、九州にやってきました。場所は福岡・天神岩田屋です。この展覧会は昭和29年より開催されており、陶芸をはじめ染織や漆芸、金工、木竹工などといったたくさんの工芸品が展示されます。全国の作家さんの作品が見られるとあり、私もいそいそと初日に出かけました。午前中会場に到着したのですが、フロアの半分以上は占めているような広い会場に、たくさんの人が集まっていました。この日は人間国宝で、この展覧会の鑑査委員もなさっている14代酒井田柿右衛門さんによる、陶芸作品数点の解説も開催され、私も聴講に参加しました。

 まずは受賞作品、日本工芸会会長賞を受賞された坂田慶造さん(山口県)の「萩剥離窯変大鉢(はぎはくりようへんおおばち)」は、土味を楽しめる器肌と、ゆったりとしたフォルムが人を和ませる作品です。剥離窯変とは独自の技法とのことで、釉薬をかけて本焼きした後に、器の内側の表面をはがすことで、このような温かな土味が表現されているのだそうです。「どうしても装飾などにひかれてしまいがちですが、こういった土の持つ味わいや美しさを改めて感じさせてくれる作品に出会うことができました。是非みなさんも注目してください。」との柿右衛門さんの言葉に、多くの方が足を止めて鑑賞されていました。

 もうひとつの受賞作品、日本伝統工芸会奨励賞「彩刻磁鉢(さいこくじはち)」は京都府の石橋裕史さんの作品です。この作品の表面には幾何学文が配されていますが、この部分は手で描いたのとも違う、彫りを施したのとも違う不思議な変化があります。これは、器に釉薬をかけ焼成した後、サンドブラストによってつくられたものだそうです。サンドブラストとは、強い圧力で砂を吹き付け、釉薬面を削り出す技法だそうです。ガラス細工などに用いられる技法だそうですが、陶磁器では珍しいのではとのことでした。「新しい技法を生み出す若いパワーが素晴らしいですね。文様だけでなく、ろくろ技術も確かな作品ですので、器形も非常に洗練されています。」と柿右衛門さん。以前何かでこのサンドブラスト技法を見たことがあったので、私も興味津々でしたが、作品が展示台の中央にあったので、近寄って間近に見ることができず、ちょっと残念でした。

 1時間ほどの作品解説の最後に柿右衛門さんから、「これだけの工芸品をまとめて見る機会はあまりありません。日本の伝統工芸の現状をぜひ皆さんしっかりご覧になり、楽しんでいってください。」との挨拶がありました。会場には出展されていた作家さんも何人か来場されていらっしゃいました。その中で先ごろ14代今泉今右衛門を襲名された今泉雅登さんにお話を伺うことができました。
作品は「染付墨はじき紫陽花文鉢」。幾何学的にデザインされた紫陽花が、深い色合いのバックに幻想的に浮かび上がっています。「墨はじきの技法を重ねていくことで、紫陽花に濃淡がでます。これによって奥行きや空間を表現しました。」と今泉さん。墨はじきとは、墨で文様を描き、上から絵具で施して焼くと、墨上の絵具が剥がれて白く抜ける下絵付けの技法のことをいいます。※
染付とのことですが、全体に深い青緑の色調なので不思議に思い今泉さんにお尋ねしました。「普通染付というと青なのですが、この作品の場合一番上の釉薬をかけずに焼成しました。これによって呉須(ごす)の色がこのような深い緑色に発色するんですよ。」との話しを聞き、染付も奥深いのだなと感じました。

 陶芸コーナーの一角には茶道具を集めたコーナーもありました。鈴木蔵さん(岐阜県)の作品「志野茶わん」は土の色と釉の色が融合したり、うっすらとお互いを引き立てたりしているような作品です。赤みがかった土の上に白っぽい釉がかかっており、ところどころ土の色味が透けて見えているのでそう感じたのかもしれません。
 山田常山さんの作品「常滑の茶注」は高さが15cmもない程の小さな作品ですが、とても力強さを感じます。どっしりとした釉の色がところどころ微妙な変化を出しています。明るく色が変化したところは、しっとりとした緑色で、湿度を感じさせるからでしょうかおもわず苔寺を思い出しました。
実は茶道具は陶芸以外にも様々な工芸部門から出展されていました。瑪瑙(めのう)などの貴石を使った茶碗には、驚きました。

 陶芸以外のコーナーも素晴らしい作品がたくさんあり、ガラス工芸や七宝などは特に女性の方に人気のようでした。お友達三人組で来場されていた学生さんに話を聞くと「今学校で陶芸を学んでいるので、見学にきました。伝統の中にも個性の魅力が発揮されているので、とても勉強になります。」と笑顔で答えてくれました。柿右衛門さんのお話を伺い、種々の工芸品を楽しめてとても充実した一日でした。この展覧会はこの後、仙台に巡回するとのことです。(三越仙台店2月26日〜3月3日)


※墨はじきについてはこちら→

■取材雑記
 柿右衛門さんの作品解説が行われているときは、通路を歩くのにもやっとというくらいの人垣でしたが、時折ユーモアを交えてお話されると、会場は笑いに包まれていました。
「工芸展」だったせいか、会場には着物姿の女性もちらほら見受けられました。今回はたくさんの伝統工芸の作品を目の前で見る絶好の機会に恵まれ、改めて手仕事の繊細さや奥深さを感じることができました。

●天神岩田屋
【所在地】福岡市中央区天神2丁目11-1
【電 話】092-721-1111