佐賀県立九州陶磁文化館・常設展作品入れ替え
<会期:平成14年12月7日〜> |
平成14年12月7日 |
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こちら北部九州も木枯らしが吹き、随分と冷え込むようになりました。佐賀県立九州陶磁文化館では、現代の九州陶芸(第2展示室)と九州の古陶磁(第3展示室)の常設展の作品入れ替えがあり、新しくお目見えした作品やコーナーを楽しむことができます。初めて展示される作家作品や、数年ぶりに登場する古陶磁があると聞き、ちょっぴりわくわくしながら展示室へ足を運びました。
まずは「現代の九州陶芸(第2展示室)」へ。ここは青木龍山氏や井上萬二氏・14代酒井田柿右衛門氏をはじめとする、九州で活躍されている現代陶芸作家108人の作品がずらりと展示されています。日本工芸会・日展系・民陶系・無所属と幅広い方面で活躍されている方の作品とあって、茶陶ありオブジェありと多様な現代作品を鑑賞できます。今回は新たに9人の作家、14代今泉今右衛門氏・藤井剛氏・田中忍氏・中尾龍純氏・江口康成氏・馬場九洲夫氏・岩田義實氏・辻聡彦氏・世良彰彦氏の作品が初めて展示されていました。
平成14年2月に14代今泉今右衛門を襲名された今右衛門氏の作品は、深い色合いが魅力の「染付墨はじき紫陽花文鉢」。墨はじきの技法を何回も何回も重ねることで、この染付の深い色合いが出来上がるのだとか。作品の前に立つと、静かな深い森の奥へ吸い込まれていくようです。
和紙染めというちょっと珍しい技法の作品が展示されていたのは、佐賀県重要無形文化財に指定されている江口勝美氏のご子息・江口康成氏の「和紙染魚文鉢」。平面的にデザインされた熱帯魚のような魚文が一列に並ぶ、リズミカルで若々しさを感じる意匠です。絵付けの色合いは、素地にしっとりと染み込んだような、ちょっと懐かしさを感じる色合いにほっと心が和みます。この和紙染という技法ですが、吸水性のある和紙を素焼きの作品の上に置き、その上から絵具をしみこませるというひと手間かける、絵付け技法だそうです。素焼きの作品に、和紙を通って絵具が付着することから、この柔らかな発色効果が出るのだとか。
現代作家の作品を楽しんだ後は、肥前の古陶磁の歴史や九州各県の古陶磁を鑑賞できる「九州の古陶磁(第3展示室)」コーナーへ向かいます。ここでは国の重要文化財に指定されている「染付鷺文三脚付皿」・「染付山水文輪花大皿」の2点を含む157点の古陶磁がずらりと展示されています。今回の作品入れ替えのポイントは二つあるのだそう。まず一つは「古唐津」のコーナーの充実。また、新たに「将軍家献上の後期鍋島」のコーナーが加わったそうです。
古唐津のコーナーではさっそく、じっくりと鑑賞する古陶磁ファンの姿もありました。まず目に飛び込んでくるのは、数年ぶりのお披露目という「鉄絵蒲公英(たんぽぽ)文鉢(1580〜1610)」。両手で抱えたとしても、少し大きいなと感じるくらいのサイズで、口縁と器の胴部分に鉄絵が施されています。胴の部分に描かれた、たんぽぽの花がなんとものどかな雰囲気です。一見ぐにゃりと湾曲した器形は、そののどかさに、ゆったりとした時間を与えているような印象さえ受けます。また口縁の鉄絵が不規則な太さで描かれているため、奔放な作品に少しの緊張感を与えているようです。この絶妙なバランスに、何時間見ていても飽きないような魅力があります。
こちらも数年ぶりに登場という「鉄絵沓茶碗(1590〜1610)」という作品も、古唐津の野趣あふれる魅力を楽しめる作品です。沓(くつ)茶碗とは、古代の沓に似た形であるためについた名称です。真正面から見ると、器の内側に向かってぐいっと凹ませてあるのがわかります。ろくろ目の跡もはっきりとわかり、陶工が鼻歌でも歌いながら作ったのではないかと思いたくなるような、大胆で自由奔放な動きがあります。この他にも、二彩唐津を中心とした武雄系古唐津の作品や、献上唐津・京焼風の唐津なども展示され、じっくりと楽しむことができます。
今回新設されたコーナー「将軍家献上の後期鍋島」では、今まであまり展示や研究が進んでいなかった、後期の鍋島作品が資料含め22点展示。盛期鍋島といわれる優れた作品を作り出していたのは、1680年から1716年頃までだったそうで、1774年に鍋島の献上品が大きく変化するのだそうです。「将軍家好みの陶器12種類」を幕閣から細かく指示を受けて、制作するようになったのだとか。このころつくり出された作品は、同じ意匠でもって幕末までの間繰り返し用いられていたようなのです。このコーナーではそうした同じ意匠でも、違う年代の鍋島作品を見ることができます。「染付牡丹文大皿」という作品は、同じ意匠で1790〜1840年の物と1800〜1860年の物の2種類を並べて展示。よく見ると、古いほうの作品は、線描きも丁寧で青い呉須の濃淡もしっかりと描き込まれています。ところが、1800年代のものになると、色の濃淡もあいまいで、線描きも少し乱雑な印象です。こうして比較して鑑賞することによって、時代背景や技術の盛衰を思い描くことができます。
この他にも、珍しい辰砂(釉下彩)を施された古伊万里や、豪華な金襴手の作品を時代順に、また九州各県を代表する古陶磁を見ることができました。古い時代の作品から、現代の作品までを一堂に見ることができる、非常に充実した常設展。目で楽しみながら鑑賞するのもよし、時代順や地域ごとの特徴を勉強しながら鑑賞するのにもぴったりです。一度足を運ばれた方も、新しい作品との出会いを求めて、再来館されてみてはいかがでしょうか。
■取材雑記
公立の美術館や博物館は観覧無料のところが多いのですが、この九州陶磁文化館も企画展開催中を除き、無料で全館を見学できます。上記の常設展を加え、1000点もの古伊万里が並ぶ「柴田夫妻コレクション(第5展示室)」・豪華な輸出伊万里の蒲原コレクションがある「九州陶磁の歴史(第4展示室)」と、たっぷりと鑑賞できます。また九州陶磁文化館では、お正月の1月2日から開館していますので、帰省の折やご旅行時に、ぜひ足を運んでみてください。
●佐賀県立九州陶磁文化館
【所在地】西松浦郡有田町中部乙3100-1
【電 話】0955-43-3681
【駐車場】有
【休館日】月曜日・12月28日〜1月1日
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