トップ >> 筒井ガンコ堂のガンコスタイル >> vol.5 灰皿など(2004年)


 しゃれた短編小説を書きのこした直木賞作家の故・神吉拓郎(かんき・たくろう)氏はまた秀逸なエッセイを書きのこしている。氏に『私(わたくし)流』という著書があり、中に「道具のある風景」という章がある。

 日常使うものは、ひんぱんに手にするだけに、使い心地のいいものが欲しい。そして、美しくあれば一段といい。

という、反論しようのない尤(もっと)もな観点から「もう一度、身の回りを見直し」ているのだが、そこに「灰皿など」の一文がある。

  喫煙具のなかで、いちばん気になるのは、灰皿である。あれだけ種類も多いのに、使って具合のいいものは、めったにない。

 かなりヘビーな喫煙者である私が普段感じていることを、二十年ほども前に神吉氏がすでに書いているのに、思わず快哉(かいさい)を叫んだのだった。
 四十年ほど喫い続けて、いままで何十個の灰皿を身近に使ったろう。多くはやきもの製だが、そのどれ一つとして100パーセント満足したものはなかった。いまでも家の中に数個の灰皿を置いているが、それぞれ一長一短があり、落ち着かない。いつも気にかけて探しているが、なかなか「これぞ」という物を見つけ得ないでいる。

 灰皿に求める要件を神吉氏はいくつか挙げているが、全く同感である。煙草の吸殻は見よいものではないから、「できれば視野から消え失せるか、もしくは目立たないようにあってほしい」から(と、喫煙者はあくまでわがままなのである)、「大きく、たっぷり余裕があり」「深い」ものがよく、また「重くて、安定がいいもの」が好ましく、「くつろいだ感じ」も失いたくない……。私はその上に「洗いやすい」という要件を付け加えたい。

 どなたか、陶芸に携わる人で、そんな灰皿を作っていただけないものか。あるいは、私の探索がまだ不足しているのかな。


photo ■筒井ガンコ堂
本名:筒井泰彦(つつい・やすひこ)
1944年佐賀県生まれ
平凡社にて雑誌「太陽」編集に従事。
佐賀新聞社で文化部長、論説委員など歴任。
元「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著)、
「必冊 池波正太郎」等
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