トップ >> 筒井ガンコ堂のガンコスタイル >> vol.2 常設展のありがたさ(2002年)
イメージ イメージ
vol.2常設展のありがたさ
 
 美術館や博物館の常設展が好きだ。
 もちろん、美術館や百貨店などが催す企画展は、あるテーマのもと、展示品は贅沢に選ばれ、中には一生に二度と見られないような逸品が含まれることもあって、若いころはそのつど見に行ったものだ。しかし、年を取るとともに億劫(あるいは怠惰?)になって、会場に足を運ぶことが少なくなった。本当は人が多過ぎて疲れるのである。目当ての作品をゆっくり鑑賞できなくてイライラするのが厭なのである。
 その点、常設展は実に気が安まる。いずれも、館蔵品を中心にさり気なく、要領よく、必要・十分に展示してある。概して人が少なく、心おきなく鑑賞できる。入場料も低廉だ。
 
 学生時代、京都や奈良の国立博物館にはよく行った。中学・高校の教科書で見た絵画・書蹟・彫刻・工芸品などの実物は(あるいはレプリカでも)、地方出身者にとっては実に光かがやく「宝物」そのものだった。東京で編集者生活をしていたころは、上野の近くに用事で出かければ、つとめて東京国立博物館へ立ち寄ることにしていた。いまでも、上京の折、時々訪ねる。


 先日、数ヵ月ぶりに、有田の佐賀県立九州陶磁文化館へ行った。新聞で紹介していた佐賀県陶芸協会展を見ておきたかったのだ。会員の人たちの最近の仕事を確認した後、私はいそいそと常設展の会場へ回った。
 佐賀県をはじめ九州各県の伝統的なやきものが産地別に展示してある一郭がある。また、九州の代表的な現代陶芸作家の作品を展示してある一郭がある。
 
そして、私の足は、いつものように地下に向かう。「柴田夫妻コレクション」である。江戸初期以来の有田のやきものの系統的なコレクションだ。展示は実に親切で、素人にも分かりやすい。私は17世紀半ばくらいまでの物が好きだ。ざっと一巡して、ようやく心が落ち着いた。
 この館の常設展(ほかにも会場がある)のグレードは他に比べようもなく高いと改めて思ったことだった。これが無料で見られるのだから、ありがたいことである。

イメージ

photo ■筒井ガンコ堂
本名:筒井泰彦(つつい・やすひこ)
1944年佐賀県生まれ
平凡社にて雑誌「太陽」編集に従事。
佐賀新聞社で文化部長、論説委員など歴任。
元「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著)、
「必冊 池波正太郎」等
Copyright(C)2002 Fukuhaku Printing CO.,LTD
このサイト内の文章や画像を無断転載することを禁じます