トップ >> やきものコラムセラミック九州 >> vol.25 騎牛笛吹童子文様(きぎゅうふえふきどうじ)

やきものにみる文様VOL.25 騎牛笛吹童子文様




 牛の背に乗り笛を吹く牧童は、画の意匠として中国では既に宋時代にはみられる。宋時代の廊庵禅師によって始められたといわれる禅の画題である『十牛図』は、人が悟りに至る十段階を、詩と短文によって解説するものである。このうち第6番目の段階をあらわす画として、自分自身を馴らし、操ることができるまでに精神的に成長した姿である。“牛に乗り笛を吹く牧童”「騎牛帰家」が描かれる。一方で、騎牛笛吹童子の図像は、山水画、とりわけ農耕図の中の点景としても描かれ、また、独立した画題としても描かれるが、この場合は『十牛図』における「騎牛帰家」のような精神的な内容は失われているようである。

やきものの文様としては、牛の意匠は古染付にしばしば登場する文様であるが、「騎牛笛吹童子文」は典型的な文様とはいえない。江戸時代に画の手引き書として流布した中国の画譜では、『芥子園画伝』に「花間笛吹牧童過」という題で、また、『八種画譜』に唐時代の詩人、崔道融による五言絶句「牧豎(ぼくじゅ)」の情景として「騎牛笛吹童子」が登場する。

図の初期伊万里の文様は、「牧豎」に歌われているように、簑笠をもち、牛の背に臥せていること、また、画譜につきものである“倣筆意”の銘が記されていることから、『八種画譜』をもとにして文様を描いた可能性が高い。これと同一文の陶片が天神森窯で出土している。
(藤原友子)

佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No.30号より(平成7年発行)

■写真…染付騎牛笛吹童子文皿
C今右衛門古陶磁美術館
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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