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やきものの技法VOL.33 仁清手(にんせいで)

色絵桜花文瓢形瓶
C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵


 色絵において黒い輪郭線を伴わない絵付で、京焼風の描き方がなされたものを仁清手と呼んでいます。京焼における色絵の創始者とされる野々村仁清にちなむ技法名です。

 有田の色絵技法は中国からの技術導入で始まり、中国の色絵磁器を手本としたため、基本的には黒い輪郭線で文様を描き、その中に緑や黄色などの上絵具を塗り込めて彩ります。赤い花などの文様を描くときは、赤の輪郭線に赤絵具のダミ(面塗り)が施されます。また赤の輪郭線内に緑や黄色を塗った描き方は、1640年代から60年代にかけて一時期さかんに行われましたが、鍋島が採用すると、有田民窯から消えます。

 仁清手のように縁取りのない色面だけの表現は、17世紀半ばの京焼において始められ、仁清や清水焼の色絵の基本的な描き方として京焼の特徴となっています。黒の縁取りがないことの他に、金による輪郭線も京焼にはよく見られます。こうした描き方が有田の色絵に影響を与えたと考えられ、1655〜60年代前半には仁清手の有田磁器が現れます。白磁素地に金銀赤の絵付けがなされたものが流行する時期と重なっています。

 写真の瓢形瓶は、白磁の素地に上絵具で桜樹文と七宝文等が描かれています。桜樹の枝は紫色、葉は緑、花は赤や紫、青、金で彩られています。それぞれ輪郭線はなく、文様間にわずかな余白がとられ、これが輪郭の役割を担っています。黒い輪郭線と異なり、淡い優美な色使いとなり、京の雅が感じられます。

 京焼の色絵との違いは、素地が陶器質である京焼に対し、肥前の仁清手は白い磁器質の素地です。貫入の入った淡黄色の素地と白磁素地では上絵具の見え方が異なり、京焼の方は落ち着いた色調となり、有田焼の方は明るい色調となります。
 有田における仁清手は色絵の主流ではなく、特殊な一群です。17世紀後半に比較的多く、皿、碗、瓶、香炉など各種のものがありますが、共通して上品なものが多くみられます。



(鈴田由紀夫)
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No43号より(平成19年発行)

■写真…色絵桜花文瓢形瓶
C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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