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やきものの技法VOL.30 吹 墨 (ふきずみ)



 染付の一つの技法で、呉須を霧吹き状に吹きかけることにより線書きや濃(だ)みではできない濃淡やグラデーションを表現することができます。呉須を含ませた筆を直接吹いて散布した細かい吹きつけ自体を文様としたものと、型紙の上から噴霧機のような道具で呉須を吹きつけ白く抜いて文様を表現したものがあります。

 中国明時代の古染付がその起源とされ、有田では初期伊万里の時期(1610〜40年代)から使用されています。初期伊万里の窯跡である山内町の百間窯や有田町の天神森窯などからは型紙を用いた吹墨の製品が出土しています。

 型紙を用いる吹墨の製作工程は、まず、文様を入れる部分を型紙などで伏せておき、その上から呉須を噴霧して細かい点状の絵付けを行い、その後、文様の表現を仕上げます。
 吹墨技法は、下の写真のような「月兎文(げっともん)」が典型で人気のある文様として多く用いられています。兎は古くから絵画や工芸品に好んで描かれた吉祥文で、桃山時代の唐津焼や織部焼の鉄絵にこの文様がみられます。

 月とともに描かれた「月兎文」は中国では不老不死・再生の象徴として古代から愛用されており、中国明末(17世紀前半)の古染付に同じ図柄の吹墨がみられます。

初期伊万里の染付月兎文は中国の古染付の月兎文を手本として製作されたと考えられますが、兎の耳が長い点など細部に相違がみられます。兎を単に模倣するのではなく日本好みに変容させていった有田の陶工達の創意工夫が伺えます。 


(森田孝志)
佐賀県立九州陶磁文化館報
セラミック九州/No40号より(平成16年発行)

■写真…染付吹墨月兎文皿
C佐賀県立九州陶磁文化館所蔵
■編集・著作…佐賀県立九州陶磁文化館
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