トップ >> やきものが登場する物語 >> 御宿かわせみ20 お吉の茶碗(平岩弓枝)

やきものが登場する物語
Vol.31
御宿かわせみ20
お吉の茶碗・全8編収録

(おきちのちゃわん)
発行所
文藝春秋
著者
平岩弓枝(ひらいわゆみえ)
定価
448円
ジャンル
歴史小説

「かわせみ」の女中頭・お吉が、大売出しの骨董屋で一箱一両の古物の山を買い込んできた。いい買物でしたと得意顔のお吉だが、掘り出し物には裏があり、数日後、骨董屋の主人が殺されて…。
(カバー広告より)

 NHKの時代劇ドラマ「御宿かわせみ」でもお馴染みの、平岩弓枝の歴史小説。旅館「かわせみ」を舞台とし、さまざまな事件や人情物が展開するお話の中のひとつが「お吉の茶碗」。

 お吉は「かわせみ」の女中頭で、どこから聞きつけてくるのか「どこそこの呉服屋で大売出しがある」、「明日は富沢町で蚊帳が半値になるそうだ」と大売出しにいそいそと出かけていきます。

ある日お吉は、店じまいをするという骨董屋から、破格値で売られていたたくさんの古物を後払いで買ってきます。その中には、価値はわからないが染付の器や、唐津の酒器がごろごろと…。お店や主人のためにというお吉ですが、「かわせみ」の女主人「るい」は少々困りながらもその買物を許します。その買物の中の古ぼけた茶碗を、お吉はたいそう気に入り、自分用にと「るい」の許可を得て、毎日のご飯やお味噌汁にと喜々として使うのです。
 ところがお吉が買物をした翌日、骨董屋の主人が殺されているのが発見されます。その理由とは?

 実はその骨董屋、殺された主人の兄の店だったのですが、盗難品などを扱ういわば闇業者だったのです。同業者の間では噂が広まっており、何も知らず店を引き継いだ主人は骨董に興味がないため、売り払って田舎に帰るつもりだったのです。ところが、盗難品が世に出回ると困る盗難にかかわった一味が、盗品の出足がつくのを恐れ、帳簿を盗むため主人も殺害してしまうのです。
そんな闇から闇をわたり歩いた茶碗だとはつゆ知らず、お吉はそれでたんとご飯を食べていたのです。

 事件調査のため、お吉の買った物も、押収されますが、なんとその中には、九州の大名家から盗まれた赤絵の大鉢などが含まれ、千両もの価値のあったものだったのです。幸いお吉が使っていた茶碗は出所もわからず、価値もないようだと判断され、お吉の手元に帰ってきます。著者のみぞ知ることですが、実はこの茶碗とある有名な作家の茶碗だったのでした。

 この本には「お吉の茶碗」を含め8編が収録されています。短編なのでさらりと読め、「唐津の酒器」・「染付の皿」など登場する陶磁器がどんなものか想像しながら読みすすめるもの楽しいものです。また「骨董」がさまざまな人物の手にわたり、それぞれの場所で価値がはかられる不思議な「物」であることも伺えます。

■関連リンク 「やきもの師」(平岩弓枝)
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