Vol.18 |
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黒縄(井上光晴第三作品集4より)
(くろなわ)
■発行所
勁草書房
■著者
井上光晴(いのうえみつはる)
■定価
3000円(こちらの書籍は現在取り扱われていないようです。図書館などでお探しください)
■ジャンル
小説 |
現実の中には真実がちりばめられており、我々はその現実の中に生きている。書く行為とは現実に打撃を与えて真実を取り出そうとする行為だ。書くことによって限りなく真実に近づいてゆく。現実を肯定する文学とは本来ありえないものだ。楽な方をえらぶ芸術家の芸術は限りなく退廃してゆく。それは現実を擁護しているからだ。…(カバー広告『井上光晴と文学伝習所より』より)
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九州西域にある黒髪皿山。ある窯元でおきた火災騒動の真相を巡って繰り広げられる、男女のもつれと怨恨、地に群れて生きる者たちの姿を描いた作品です。
前畑精一とその妻が焼死した火事の原因が、精一への恨みによる放火であるという噂が出たあと、疑惑の目は古場光雄の姉である弘子へと向けられます。再婚話が破談したショックから精神を病み、伏せる毎日を送っていたはずの弘子が伊万里で精一と会っていた。唐津の産婦人科で精一の赤子を堕胎した。……
この物語を牽引するための仕掛けとして使われているのが、村民たちが口にする「噂」の数々です。作者である井上光晴は最後まで真相を開示しないまま、彼らの噂話だけを書くことによって、犯人だと疑われている姉を持つ光雄を窮地に陥れていきます。そのような会話を柱にした物語展開の巧みさは、井上光晴作品の特徴の一つでもあり、会話のひとつひとつが、リアリティーをもって物語を構成していきます。
「黒縄」は「黒髪の椀」として書かれたものを改題し上梓したもので、作者の焼き物に対する造詣の深さを垣間見ることができます。この中では、祖父光内が完成した「黒髪」という椀を受け継ぐ光雄の姿を通して、作者の焼き物に対する考え方をうかがい知ることができます。
ところで黒髪皿山という地名ですが、九州地方では窯場のことを皿山といい、現在もいくつか地名として残っているところがあります。どこがこの小説の舞台であるかどうかはどうでもいいことなのですが、井上光晴氏ほど九州西域を舞台にして小説を書いた作家を他に知りません。現在、氏の作品は全集以外に手に入れることが難しくなっていますが、焼き物に関する作品では、他に「黒髪」「村沢窯の血」などがあります。
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